「恵比寿は飲食店が充実している」は本当か? 恵比寿在住フードライターが語る、恵比寿の食事情

「恵比寿は飲食店が充実している」は本当か? 恵比寿在住フードライターが語る、恵比寿の食事情

前回、3歳から恵比寿に住まうフードライター(でありながら美容やファッション、ITにも詳しい)、小石原はるかさんに「住みたい街ランキングで恵比寿が上位の理由」を街の歴史や地勢、美容やファッションなどについて女性視点でひもといてもらいました。

前回のおさらい
・恵比寿という住宅街に起きた転機は2回。1990年代後半と2010年代中頃
・最初の転機はデートスポット化、2回目は女性のための街化
・白金、代官山、広尾など周辺エリアも含めた地勢由来の治安の良さ

そしてもうひとつ、「住みたい街ランキング」で恵比寿が人気となる理由として挙げられるのが「飲食店の充実」ですが、恵比寿の飲食店事情には悩ましいところもあるようです。

駅周辺には没個性的な店が増え、個性的な店は恵比寿を離れる

小泉料理店
出典:小泉料理店HP

「わたしは、店主の雰囲気が店内に満ちているような飲食店が好きなんです。でも、恵比寿はバブルとそれに続く再開発以降、地価が高騰して個人店が出店できるような隙間がずいぶん少なくなってしまいました。最近のお店だと駅周辺で気に入っているのは、料理もワインもおいしいビストロの『小泉料理店』や、裏路地のワインスタンド『Waltz』くらい。小体で気のきいた店に行きたくなります」

もっとも近年では、駅近辺の新店に没個性的な店が増えていて、恵比寿から少し離れたエリアに個性的な店が増えているのだとか。

「この数年、白金や目黒の裏路地あたりの少し不便そうな場所に小さないいお店(個人店経営の鮨店や焼鳥店)がオープンすることが多いんです。『なぜここに?』と聞くと『本当は恵比寿がよかったけど、家賃が高くて……』というお店も多いんです」

現代の恵比寿の飲食店事情を象徴しているのは、商業施設内に出店するような、女性を意識した店舗なのだそう。

「とりわけ、アトレ恵比寿に入っている飲食店は象徴的ですね。西館2Fのオーガニックレストラン『コスメキッチンアダプテーション』、西館7Fの点心料理店『鼎泰豐(ディンタイフォン)』などは完全に女性向けの出店でしょうし、ラーメン店にしても本館2Fの『KAMUKURAダイニング』のように、女性を意識したつくりになっています」

鼎泰豐
出典:鼎泰豐HP

「恵比寿横丁」の登場で、恵比寿の渋谷化が加速…

恵比寿横丁
「山下ショッピングセンター」跡地に2008年誕生した「恵比寿横丁」。 ナンパ目的の「ウェイウェイした人」たちも遠くから訪れる

違う角度からも恵比寿の特殊事情は伺えます。この数年、大ブレイク中の狭小スパイスカレー店は恵比寿界隈にはあまり見かけません。というのも、最近のスパイスカレー界は”間借りカレー”という言葉が流行るくらい、個人経営で小さくスタートするのがすっかり常道に。地代が高く、隙間の少ない、現代の恵比寿に進出しづらいという面もあるようです。

「でも以前の恵比寿って、個人の飲食店もいまよりはるかに多くて、屋台だって普通にあったんですよ」

現在の恵比寿からはとても想像できませんが、その昔、恵比寿にも屋台はそこかしこにありました。屋台発の名店『恵比寿ラーメン』が路面店に移行したのは、1989(平成元)年のこと。深夜3時に開店することで知られた東口の名物屋台『由紀子』は1999年まで東口の名物屋台でした。

「いま当時の面影を残すのは『えびすストア』のような裏路地の商店街くらいかもしれません。以前は『えびすストア』の東側にも『山下ショッピングセンター』という小さな商店街があったんですが、さびれてしまって……。2008年、その跡地にできたのが恵比寿横丁』ですが、その頃から、恵比寿の渋谷化が加速したような気がします。あそこの入口近辺にいる、呼び込みさんやウェイウェイした人たちがちょっぴり苦手なので、夜はなるべく通らないようにしています」

言われてみれば、恵比寿横丁の入口近辺で、隣のコンビニで酒を買い込んで、路上で飲酒する若者の姿を見たことがあるような……。確かに路上での開放的な飲酒は渋谷的!

「それでも、路上でのモメごとなどはあまり見かけませんね。街全体としてはやっぱり恵比寿は交通の便もいいし、治安もいい。困ることと言えば、食料品が充実していた恵比寿ガーデンプレイスの三越も閉店が発表されて、日常の買い物ができる食料品店が減ってしまうことくらいでしょうか。それでも『ピーコック』は健在ですし、アトレの地下には『ザ・ガーデン自由が丘』もあるので、食べることにも不便はないと思います。過剰にこだわりさえしなければ(笑)」

スタイリッシュな商業施設がありながら、一定の猥雑さも内包する街、それが現在の恵比寿という街なのかもしれません。

「西口では、いまももつ焼き酒場の『たつや』が朝8時から営業していますし、立ち飲みの「縄のれん」も数年前にビルになりましたが、客あしらいは昔のままのざっくばらんなある意味塩対応(笑)。フカヒレ料理の名店『筑紫樓』があるのも、恵比寿銀座商店街のラブホテルが軒を連ねた奥のほう。いまの恵比寿はアトレのおかげで、つるんとしたきれいな街というニュアンスを醸しながら、多少の喧騒と混沌を伴う街――。住民としてはそんな印象を持っています」

昭和の面影を残しながら、平成の再開発で街の印象をアップデートした恵比寿。激動の令和にどんな街へと発展していくのか。一度「住みたい街」に住んでみて、街の過渡期を目の当たりにするのもいいかもしれません(家賃は高めです)。

取材・文:馬場企画

小石原はるか

1972年生まれ。比較的マニアックな気質とそこそこ丈夫な胃袋で、様々な事象にハマってきた、人呼んで”偏愛系ライター”。著書に『スターバックスマニアックス』(小学館文庫)、『麹の「生きた力」を引き出す本』(共著・青春スーパーブックス)『東京最高のレストラン』(共著・ぴあ刊)、『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)など。

◆こちらもおすすめ◆

なぜ女性は恵比寿が好きなのか? 恵比寿在住40年超の女性ライターが語る、恵比寿の真実

なぜ「憧れの吉祥寺」はトップから陥落したのか? 地元出身の編集者に聞いてみると…

なぜかU35男性に人気の「中野」「津田沼」「浦和」。日本人男性の企業戦士っぷりが浮き彫りに!?

公開日 2020年7月21日
更新日 2023年2月14日

LogRenoveをフォローする

販売中のおすすめリノベ物件