ややこしい入居者にはなりたくない。でも損するのはもっとイヤ――管理会社や大家に相談すべきこと、すべきでないこと

ややこしい入居者にはなりたくない。でも損するのはもっとイヤ――管理会社や大家に相談すべきこと、すべきでないこと

賃貸住宅の店子にとって、大家さんや管理会社との交渉事は悩ましいことのひとつ。不具合や不便なことはすぐ解消したいけど、あれこれ要求して厄介な店子だと思われたくはない――。

それは飲食店でも同様です。新型コロナウイルスによって飲食店へのダメージはいまなお深刻ですが、第一波の3月の時点で多くの飲食店が売上の激減に苦しんでいました。売上減となれば、固定費が大きな負担になります。多くの飲食店ではなりふり構わず、雇用をいったん縮小するなどして生き残りに取り組みました。しかし家賃はどうにもなりません。

現代飲食店の店舗は、その多くが賃貸物件です。4月17日、国土交通省が貸主(大家)を対象に国税を猶予する”優遇”措置を発表。その前後からSNS上でも、家賃の減額や支払いの延納を交渉しようという動きが目につくようになりました。

実際今年の前半、管理会社や大家のもとには、どんな相談が舞い込んできていたのでしょうか。常時500~1000戸の物件を管理しているという、千野建物管理の塩塚厚則さんに今年舞い込んだ相談について伺いました。

「特に今年の4月、緊急事態宣言が出た前後の相談は多かったですね、といっても、大家さんもご商売ですから、ただ「家賃を棒引きにしろ」と言われても困りますし、僕も『聞いてはみますが、難しいと思いますよ』という回答になってしまいますよね」

やはり、そうかんたんに減免とはいかなかったようですが、延納など相談内容によっては大家さんも応じてくれるケースも少なからずあったのだそう。

「特に4月に国交省が『テナント事業者の賃料を減免または猶予したビル賃貸業者に対し、1年間国税などを猶予する』という支援策を発表してから、相談が増えた印象はありますね」

減免交渉のパターンもいくつかあり、その方策によっても成否は変わってくるのだとか。
1.「今月と来月、家賃を20%下げてほしい」など自店の事情によって、減額幅を伝えてくる
2.「とにかく賃料を棒引きにしてくれ」と要求する
3.「1か月間、支払いを猶予してもらえないか」と相談する

「国が大家に対しても国税の猶予措置を打ち出したこともあってか、3の支払い猶予については応じるオーナーさんは多かったですね。2の棒引きはほぼ門前払い。1の支払い額の減免については、ケースバイケースでしたが、その程度の金額で立ち行かなくなるなら、今後、見る目も厳しくなる。そのことがわかっているからか、減免を相談される方も『ダメ元でのご相談なんですが……』という方が多かった気がします」

実際、貸主側に話を通してみると、「こんな短期間でダメになる程度の手元資金しかないなら、いつ何があるかわからない。退去の相談をしなくちゃいけないかもしれませんね」と反応する大家もいたといいます。

「もっとも、給付金などの支援が決定した頃からは、そういう話もほとんどなくなりました。そう考えると、借り手も気軽に家賃の減免を相談していたわけでもなかった、ということですよね」

貸主側にとっては賃貸業もまた生きるための生業です。借りる側の店子にリスクが潜んでいるとなれば、リスクを排除しようとする貸主だっていて不思議ではありません。得られるはずの収入がなくなれば、貸す側の生活だって脅かされてしまいます。

言いたいことを言わないと敷金に影響することも…

大家に電話
備え付けの設備の不具合は、気づいたらその都度連絡するのがベスト。その場で連絡しないと、後のトラブルにつながることも

では飲食店ではなく、マンションなど一般的な賃貸住宅の場合は、何をどの程度まで大家に相談・交渉できるのでしょうか。

「支払いの猶予や減免はともかくとして、例えばエアコンなどの不具合などは、直すにせよ、直さないにせよ、気づいたら遠慮せずにすぐ連絡したほうがいいですね。賃貸でもっとも多いトラブルは、退去時の原状回復の範囲の食い違い。気づいたときに都度都度連絡しておけば、トラブルを未然に防ぐことができます」

実際、東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」にも「借り主の費用負担」には「借り主の責任によって生じた、または故障や不具合を放置したことにより、発生・拡大した汚れやキズにとっては、借り主が負担するのが原則」となっています。


言い換えれば「いつ故障したものか説明できないケースは借主側の責任となりうる」とされているのです。

「契約期間中何も申告せず、退去時になって瑕疵が見つかってしまうと返還されるはずの敷金に影響することも考えられます。小さいうちに見つければ対処がかんたんなものでも、破損や汚れが大きくなってからだと原状回復が難しくなるケースもあります。何か異変を見つけたら、すぐ連絡をされたほうがいいですね」

ちなみに今年、例年より多かったのは網戸の不具合なのだとか。

「いつの間にか破けていたり、立てつけが悪くなっていたり。テレワークによる、ステイホーム期間ということもあって、家にいる時間が長くなり、ふだん見過ごしていた破損などが目についたんでしょう。『いつからかわからない』というケースもありましたから」

経年劣化や自然な破損については、管理会社や大家が業者の手配から支払いまで段取ってくれるケースがほとんどなので、気になるところがあれば早めの相談を。

家賃の減免や延納など、のっぴきならない相談はここ一番に取っておき、いざというときになごやかに相談できるよう、ちょっとした不具合もこまめに報告・相談するのが良策なのだとか。何か起きる前、管理会社や大家さんとの間に風通しのいい関係を作っておく。こんなご時勢だからこそ、そうした日常のコミュニケーションが大切なのです。

 

取材・文:馬場企画

塩塚厚則(しおつか・あつのり)

株式会社プロポライフに2013年に中途入社。開発事業部、管理部を経て、2016年よりグループ会社の千野建物管理株式会社に転籍。分譲マンションの管理業務に従事し、その後、賃貸住宅の管理をメインとしながら、PM・BM問わず不動産の管理に関わる業務を担当。趣味は息子と遊ぶこと。

千野建物管理株式会社

公開日 2020年8月25日
更新日 2023年2月14日

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