あの人気コラムニストが「借りて住みたい街No.1」の池袋にマンションを買った理由

あの人気コラムニストが「借りて住みたい街No.1」の池袋にマンションを買った理由

「池袋って住んでみると肩の凝らない、いい街なんですよ」と語るのは池袋に拠点を構えて25年というコラムニストの石原壮一郎さん。当初は事務所として使っていた物件を購入・リノベーションし、ついに「終の住処」とすることにしたのだとか。

そんな池袋はさまざまな「住みたい街」ランキングで上位と下位の両方に名を連ねています。数年前までの池袋エリアは、敬遠されるようなランキングばかりで上位の常連でした。2014年には池袋を擁する豊島区が東京23区で唯一「消滅可能性都市」――「少子化や人口移動などで将来消滅する可能性がある自治体」として名指しされてしまいます。

豊島区は当初は反発したものの、すぐさま方針を転換。緊急対策会議を実施し、2015年には「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」を策定し、2016年には「女性にやさしいまちづくり担当課」を新設。池袋を中心とした街のイメージアップにつとめてきました。

その甲斐あってか「借りて住みたい街ランキング」(LIFULL HOME’S)では2017~2020年まで4年連続の1位を獲得。東口、西口とも街の風景は大きく変わりつつあります。

グローバルリング
かつてはカラーギャングがたむろしていた池袋西口公園が、クリーンで文化的な公園に変貌した

「今年の7月には、東口の豊島区役所と豊島公会堂の跡地に8つの劇場が格納される『ハレザ池袋』がグランドオープンしました。豊島区が掲げる『国際アート・カルチャー都市』構想を象徴するような大規模施設となっています」

他にも、小説やドラマで人気を博した『池袋ウエストゲートパーク』の池袋西口公園が劇場公園「GLOBAL RING」に変わり、”カラーギャング”のモチーフとなった若者がたむろしていた公園にはカップルの姿が目立つようになりました。

「豊島区役所のちょっと古びた風情やごちゃごちゃしていた南池袋公園がおしゃれな都市型公園にリニューアルしたことで、見た目の印象は少し変わったかもしれません。でも、北口には『池袋チャイナタウン』と呼ばれる混沌とした魅力あふれるエリアがありますし、腐女子の聖地、東口の『乙女ロード』も健在です」

池袋という街に根ざしたアートやカルチャーは、この地に集う人々が作り上げた自然発生的なもの。「池袋のカルチャーは、もう少し泥臭いもの。お上が流行りに乗って、こぎれいなハコモノを作って、西口の焼きとん屋に恥ずかしくないのでしょうか」と石原さんは憤ります。

「『借りて住みたい街ランキング』で池袋の評判がよくなったのはこぎれいなものが増えたからではなく、世の中が池袋的な混沌とした価値を認めるようになったからではないでしょうか」

確かにこの30年ほどの「住みたい街ランキング」を眺めていると、明らかな変化が見て取れます。1990年代はファッションとカルチャーの下北沢や代官山が人気で、2000年以降は吉祥寺や恵比寿のような繁華街にほど近い高級住宅地が憧れの対象となりました。近年ではランキングも多様になり、川口や赤羽、王子など、以前は名前の上らなかったエリアが上位にランクされるようになってきています。

青山や代官山でなく“あえて池袋”の理由

東武東上線
池袋は東武東上線、西武池袋線のおかげで埼玉県西部エリアへのアクセスが抜群にいい。石原氏のご自宅、埼玉県新座市からも無理なく通える距離だったが…

埼玉県新座市に住まっていた石原さんが、池袋に事務所を構えたのは1990年代の中頃のことでした。

「よく『どうして池袋なんですか?』と聞かれました。当時、同業者で独立する人が事務所を構えるのは、青山や代官山といったおしゃれな街ばかりでしたから。でも池袋は家賃は安いし、都心への便もいい。だいたい自宅のあった埼玉県新座市から、青山や代官山に毎日通えるわけがありませんよね。えへへ」

という石原さんですが、ほどなく「通える」はずの池袋の事務所に、毎日のように寝泊まりするようになっていきます。

「場所としては東池袋駅から近いので、新座にも帰りやすいはずなんですが、つい遅くなったり、寝てしまったりして……。事務所を構えたばかりの頃は、昔ながらの日の出町商店街にもまだ活気が残っていました。肉屋や八百屋が何軒もあって、豆腐屋も3軒あったかな。いまは池袋というと西武や東武といった百貨店のイメージが強いと思いますが、近所の西友やマルエツなどのスーパーも充実しているので買い物には事欠きません」

もちろん池袋は交通も至便です。JR山手線で新宿、渋谷、恵比寿はもちろん、埼京線で十条へ2駅、赤羽にも3駅。東京メトロ有楽町線では銀座や豊洲にも一本で行くことができます。

「東武東上線や西武池袋線は、都心から埼玉の西部に直接アクセスできる貴重な路線です。西武池袋線の特急ラビューに乗れば、所沢まで1駅で西武秩父まで77分。いっぽう、池袋からほど近い東池袋四丁目や雑司が谷あたりから都電荒川線に乗れば、東京の原風景にも触れることができます。都心部だけでなく、さまざまな異界への扉が開かれているのが池袋らしさ。街に目を向ければサンシャインに勤めるビジネスマンから酔客や風俗嬢までをも受け止める包容力がある。こうした多様な価値観が備わっている街は、都内でも池袋くらいではないでしょうか」

石原さん自身、こうした池袋の魅力に目覚めたのは事務所使いをしていた2LDKのマンションを購入してからだと言います。

「私自身『池袋にいる自分は仮の姿』というか、借りているうちは『いつかこの街を出ていく』と思っていたのかもしれません。買ってこそわかる深淵がある気がします。いまの家はもともと賃貸だったんですが、10数年前に入居して、その何年か後、大家さんから『買いませんか?』というお話があり、縁あって買わせてもらったことで『池袋の人として生きていく』と腹をくくることができたのかもしれません」

腹をくくった(借りるのではなく買った)からこそ見えてくる、池袋という街の魅力――。

「確かに見栄えのいい、きれいな建物や施設が増えましたが、池袋は相変わらず気張らないし、気取らないし、垢抜けない。でもそれは裏を返せば、肩に力を入れずに生きていくことができるという魅力の裏返しでもある。振り返れば、そこに池袋がいる。そんな身近さが池袋の魅力だと思います」

 

取材・文:馬場企画

石原壮一郎

コラムニスト。1963年三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の素晴らしさと奥深さを世に知らしめた。
以来『大人の女養成講座』『大人力検定』『大人の合コン力』などなど、大人をテーマにした著書を次々と念入りに発表しつつ、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ウェブ、ゲームなどあらゆる媒体で活躍し、日本の大人シーンを牽引している。
2012年7月に「伊勢うどん友の会」を立ち上げ、故郷の名物・伊勢うどんの応援をスタートした。その呆れるほど熱心な活動ぶりと伊勢うどんへの太い思いが認められ、2013年8月には世界初の「伊勢うどん大使」(伊勢市麺類飲食業組合&三重県製麺協同組合公認)に就任した。2016年4月より「松阪市ブランド大使」も務めている。

公開日 2020年8月17日
更新日 2023年3月22日

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